読者の皆様,このような拙い文章をご覧いただきありがとうございます.金崎研究室のとある学生です.2025年10月15日 ~ 17日にかけて沖縄県市町村自治会館 (沖縄県那覇市) で開催された第63回飛行機シンポジウムに出席した際の記録を掲載いたします.
1. 全体の感想
この「飛行機シンポジウム」では,航空機に関する多岐にわたる研究が一堂に会し,アカデミア (研究機関)・産業界 (企業) そして行政 (政府機関) にわたる幅広い知見を得ることができました.
全体的な印象として,Artificial
Intelligence (AI) や Model-Based
Systems Engineering (MBSE) に関連する研究が,活発に展開されていることを強く感じました.近年,複雑化の一途をたどる航空機開発の環境は,民間・防衛・研究の全分野において,プロジェクトの複雑化と長期化を招いています.この現状に対し,いかに効率化の手法を考案・実践していくかという点が,航空分野における喫緊の課題として強く認識されていることが伝わってきました.私の研究テーマはこの課題に直接的に関わるものではありませんが,研究で得られた知見が,将来の航空機開発に何らかの形で貢献できることを願っております.
2. 気になった発表
聴講した発表はすべてすばらしく,学びになるものでしたが,すべて書き出すと論文並みの分量になるため,ここでは2つだけ抜粋して記述いたします.簡略化のため,執筆者のお名前などは省略して掲載いたします.
2.1 将来の無人機へのAI適用に係る一検討 (2A07)
近年話題の無人機とAIの組み合わせに関する研究です.その分野に詳しい方ならご存じだとは思いますが,学習データと実際の環境のズレ (突風や機体の性能誤差など) によって,AIのパフォーマンスが劣化してしまう問題があります.これに対して,Automatic
Domain Randomization (ADR) という手法を導入することで,AIの環境変動への適応性が高くなるとのことです.(専門外の雑な理解ですが) ADRは,学習中にAIがミッションに成功したら環境の変動幅を大きくし,失敗したら変動幅を小さくするという仕組みで,徐々にAIを「タフ」に育てていくようです.この研究では,風速・風向・空力係数といった環境変動をシミュレーションに組み込み,AI搭載機が有人機の後方を追従できた場合に報酬を与えるモデルで検証されていました.
ADRを適用した結果,ある程度の外乱であれば,AI が見事に追従を成功させていました.SF映画でよく見る技術 (ファンネルや随伴無人機など) が,もうすぐ手の届くところまで来ていると実感し,思わず興奮しながら見入ってしまいました.
2.2 非定常剥離翼流からの情報理論的機械学習を用いた時変因果モード抽出 (3D11)
この発表は,まずプレゼンテーション自体がすばらしかったです (君は何様だよって話ですが,すみません…) . 研究が去年始まったばかりという新しさもあり,聴衆の理解を促すために,分かりやすい具体例を交えながらスムーズに進行されており,私が見習うべきプレゼン技術だと感じました.
本題に入りますが,これは非定常な流れ場を可視化する研究です.Computational
Fluid Dynamics (CFD) でも Experimental
Fluid Dynamics (EFD) でも,刻々と変化する流れ場から,何らかの特徴を持つ流れ (モード) を抽出するのは非常に難しい課題です.従来の抽出方法として,POD (Proper
Orthogonal Decomposition) や DMD (Dynamic Mode Decomposition) が知られています.これらはそれぞれ,エネルギーが大きい流れや特定の周波数を持つ流れを抽出する手法です (間違っていたら殴ってください) .しかし,空力エンジニアが本当に知りたいのは「どの流れが,揚力や抗力といった空力性能に直接関わっているのか?」という因果関係です.上記の手法では,この直接的な説明が困難でした.
そこで,この研究では情報理論をベースとして,空力性能と流れ場の関連性を定量化し,空力性能への影響が大きい流れ場だけを抽出することを目的としています.詳細な説明は省きますが,例えば,とある時刻・座標における翼スパン方向渦度と揚力係数において,この2つに何らかの関係性があるならば,それらの同時確率は独立を仮定したときの確率よりも大きくなると予想されます.このことをより定量化した「相互情報量」というものが大きくなる流れ場を機械学習により抽出するという手法らしいです (私の1コア1スレッドの弱小CPU では理解が難しいです…).実際に手法を適用した結果,非定常流れ場から平板翼の揚力に寄与する流れを,直感的理解に反しない形で抽出できていました.さらに驚いたのは,ノイズを多量に含んだEFDの結果に適用したところ,そのノイズ成分は「揚力に寄与していない」と判定され,1種のノイズ除去フィルターのように機能していた点です.これらの結果には非常に驚かされると同時に,また新しい「人類の武器」が増えたような頼もしさを感じました.
このほかにも,システム要求定義から1次・2次サイジングまでの自動化 (Ansys社のModelCenter というシステム設計専用ソフトを用いたようです.使ってみたいです.) や,アンモニア航空機の概念設計,トヨタのマザーシッププロジェクトのお話 (Japan
Mobility Show 2025 に出展するとのことです.ご興味がありましたら,ぜひ足を運んでみてください.) など,ここには書ききれないほど興味がそそられる研究を聴講でき,非常に好奇心が満たされた学会でした.
3. 最後に
最後に,航空研究の発展に真摯に取り組むすべての参加者の方々に心からの敬意と謝意を表し,本報告の結びといたします.また,本記録に最後まで目を通してくださった読者の皆様にも深く感謝申し上げます.

